全く尊敬できない先輩がいる。
道にゴミを捨てるし、偉そうで、気分屋で、自分の絡んだ女の話ばかりする。
「金なさすぎて最近は彼女のヒモみたいになってるわあ」と口にしていたのを覚えている。
とにかく、この人を手本にしてはいけないと後輩の我々は皆、心に留めている。
そんな先輩を含む5人でカラオケに行くことになった。
自分はミスチルとか、福山とか、斉藤和義など、親世代の曲を選ぶことが多くある。
しかし彼もまた、その世代の曲を選ぶ傾向にあったのだ。
そして彼は、憎たらしいほどに歌が上手い。
今まで会った人の中で一番上手かもしれない。
しかし自分も下手ではない部類にいると思っている。
それでも彼の歌声には到底及ばなかったのだった。
自分の十八番を彼が曲選することが多くあった。
そして自分が彼の持ち歌を選んでしまい、「あー!それ俺が入れようとしてたのに!」と理不尽にわめかれることもあった。
自分の大好きな曲、歌うたいのバラッド、ずっと好きだった、スキマスイッチのボクノート、などが、彼の黄ばんだ喉から清流のように流れた。
僕の好きな十八番たちは彼の美声によって汚されていったのだ。